やさしい味

  心に染み入るような美味しい物を食べたとき、
美味しいからどんどん食べたいと思う反面、
なくなってしまうと寂しくなるからゆっくり食べようと思ったりもして、
複雑な気持ちになる。
でもその瞬間、私はとても幸福で、満たされている。


  美味しければなんでもいいというわけではない。
食べると心が落ち着くような美味しさに出会うと、そういう気持ちになるのだ。
心がほっこりするような美味しさだと私が言うと、その人は、
「やさしい味ね」
と、答えた。
そうか、これはやさしい味なんだな、と、そのとき気が付いた。


  料理も表現のうち、と何となく思ってはいたけれど、
そのときはっきりと認識した。
絵や文章にその人の人間性如実に現れるように、
料理にもその人の人格が表現される。


  きっと、不器用で、人前でうまく自分を出せない人ほど、
何かを作ることに夢中になっていくのだろう。
1人で集中して、恥ずかしさだとか、日頃の不器用さを忘れて、
自分を表現していく。
私も本当はそういう人間なんだけどなぁ、と、
その人が作ったトリッパを食べながら思った。
2時間煮込んだのだという。
人と人とは時間をかけて親しくなっていくのがいいように、
作品も、時間をかけてじっくり創っていくのがいい。
その分、その作品には自分の心がこもる。愛着もわく。
私は、そういうことやものが、好きだ。