吉田さん、これからどうするの?

  今朝、校閲室の新聞を綴じていたら、
「吉田さん、これからどうするの?」
と、突然聞かれた。
ヒゲと黒ぶちメガネがトレードマークの男性で、
多分、部長かなにか、そこそこの役職の人だろうと思われる。
名前も知っているし、よく話はするが、
私は彼の役職を知らない。
ただ、偉い人が座りそうな位置に座っているので、
偉いのであろうと思われる。
「今のままじゃ、不安定でしょ。」
彼は言った。
「そうなんですよね。
 ここでは正社員になるのは無理そうなので、
 どこか正社員になれそうな所を探しているんです。」
「もう探してるの。」
そう言って彼は笑ったけれど、
何を隠そう、実は、昨晩  転職サイトに登録したばかりなのだ。
「しばらくはここで働きたいですけど、
 そろそろ正社員になりたい、って思った時に手遅れにならないよう、
 今から探しておこうと思って。
 まだここで働き始めたばかりだから、
 今辞めちゃうと、ただの仕事が続かない人になっちゃうので、
 編集長に『辞めてください』と言われない限りは働きます。」
校閲部のアルバイトの人のことなど、まぁ諸々のことを話していたら、
彼は言った。
「吉田さんはしっかりしてるから、
 しばらくはここで働いててくださいよ。」
「何歳くらいまで大丈夫ですかね?」
思わず私がそう言うと、
「それは僕にはわからないなー。」
と彼は笑った。


  人からそういう風に言われたことが嬉しくて、
思わず書かずにはいられなかった。
自己顕示欲を満たしたい訳じゃない。
自分に自信がないから、こうして人の言葉で確かめておきたいのだ。


  私の席の前に座っているベテランの女性は、
時間がある時には彼女のおすすめの会社のホームページを検索して、
「吉田さん、いま、この会社募集が出てるよ。
 今回の募集は応募できなくても、
 たまにやってるみたいだから、見ておくといいよ。」
と、教えてくれる。
先日はおすすめの雑誌の編集部にいる知り合いに、
募集はないか聞いてくれた。
食べ物専門の情報誌だ。