駒沢大学駅での出来事

  月末の最終日は売上げが出るまで帰れない。
会社を出るのが、大体10時から11時の間くらいだ。
それよりも遅いこともあった。


  そういうわけで、11時半くらいに電車に乗っていたら、
駒沢大学駅から、
アルバイトをしていたお店の常連さんが乗ってきた。
さらさらの長い髪の毛が特徴の、女性だ。
その人がお店にくると、
いつも色々な話をしたものだった。
ボーカルトレーニングの先生をしているのだという。
「こんばんは。お久しぶりです。」
と、私が声をかけると、
「あぁ、珈琲屋さんの!」
と、その人もすぐに私に気付いてくれた。


  遅いですね、なんてお互いに言いながら、
他愛もない話をした。
そうするうち、
その人は20代の頃に歌をする傍ら、花屋を経営していたことを知った。
好きなことを続けるためには、
どうしてもアルバイトで色々なことをしなければならなかったのだと、
その人は言った。
「やっぱり、好きなことは続けていた方がいいですよ。」
とその人に言われた時、
あぁ、どうしてこんなタイミングでここでこの人に会ったんだろう、
と、涙が出そうになった。


  とんでもない偶然ではないか。
10両もある電車で、1両には4つも扉があるというのに、
その人は、ちょうど私が立っていた扉の所に乗ってきたのだ。
しかも、そんな時間に。
あまりにもびっくりして、
その人と別れた後、バスの中でもまだ興奮していた。