呑み助の星

  とんでもなく酔っぱらって帰った帰り道、
道ばたで携帯電話を落っことして、
電池パックのカバーがどこかに消えてしまった。
真っ暗だし、酔っぱらっているし、
辺りは落ち葉だらけで、とても見つかりそうになかった。
落ち葉をかき分けながら、
しゃがんで一生懸命探したのに、だめだった。


  道で携帯を落として、電池パックのカバーがどこかに飛んで、
見つからないから電話をしてもいい?
なんてことを言って、深夜だというのに知り合いに電話した。
もう寝たい、と言われても、
暗くて恐いからもう少し付き合ってくれ、なんて駄々をこねて、
30分も付き合わせた。
結局、見つからなかった。


  人に迷惑をかけるくらい酔っぱらったのは本当に久しぶりのことで、
道で何度も転んで、
「大丈夫、帰れるの?」
なんて言われながら帰ってきた。
とんでもなく酔っぱらっていて、千鳥足もいい所だったというのに、
なぜか意識ははっきりしていて、
自分がどんなに酔っぱらって、どこで転んで、何を言って、
人から何を言われたかも覚えている。
忘れてしまえたら楽なのに、
全部覚えている物だから、素面に戻った後は恥ずかしくてたまらない。


  『星の王子さま』の、酔っぱらいの星の話を思い出した。


      呑み助は、からのビンと、酒のいっぱいはいったビンを、
      ずらりと前にならべて、だまりこくっています。
      王子さまは、それを見て、いいました。
      「きみは、そこで、なにしてるの?」
      「酒のんでるよ」と、呑み助は、
      いまにも泣きだしそうな顔をして答えました。
      「なぜ、酒なんかのむの?」と、王子さまはたずねました。
      「忘れたいからさ」と、呑み助は答えました。
      「忘れるって、なにをさ?」と、王子さまは、
      気のどくになりだして、ききました。
      「はずかしいのを忘れるんだよ」と、
      呑み助は伏し目がちになってうちあけました。
      「はずかしいって、なにが?」と、王子さまは、
      あいての気もちをひきたてるつもりになって、ききました。
      「酒のむのが、はずかしいんだよ」というなり、
      呑み助は、だまりこくってしまいました。
   
                   (内藤濯訳『星の王子さま』)


  色んなことがどうでもよくなって、
沢山たくさんお酒を呑みたくなって呑んだのだけど、
それで恥ずかしくなって、
恥ずかしさを忘れるためにまたお酒を呑みたいと思った。
初めて、この「呑み助」の気持ちがわかった気がした。