日吉のレストラン

  日吉に大好きなレストランがある。
入社2日目のランチで先輩につれていってもらったお店で、
その日に食べたホタルイカのパスタの感動は今でも忘れない。
目を閉じれば海岸の風景が瞼に浮かんでくるような新鮮な磯の香りがした。
お店の雰囲気も温かくて、
そしてこじんまりとした感じが落ち着きを与え、
料理の美味しさが増す。
引き継がせてください、引き継がせてください、と先輩にお願いして、
担当するようになった。
前任の先輩も大好きだったお店で、
彼も、部署を異動することになんてならなければ、
絶対に手放さないようなお店だった。


  今日はワインの営業に行きつつ、ランチもした。
カウンター席に座って、
シェフがてきぱきと働く姿を見るのも、楽しみの一つだ。
お客さんたちに常に目を配りながら、料理もして、
見習いの人たちに指示も出す。
そんな様子を見ているうちに、料理が出てくる。
今日はたらことタラの和風仕立てパスタだった。
そこに一口サイズに切った冷たいフレッシュトマトと、万能ネギが入っていて、
アクセントになっている。
爽やかな柑橘系の香りが、生臭さを消していた。
香りの正体は何かのピールだろうかと、
パスタに少しだけ入っていたオレンジ色の細長くて小さな物を食べたのだけど、
どうも違うようだった。
シェフに後で聞いたら、
私がピールだと思って食べた物はにんじんで、
香り付けをしたのはレモンの汁だったのだとか。


  今日はワインも飲んでしまおう、と思って、
パスタに合うワインをお願いした。
ピエモンテ産のアルネイスを出してくださった。
  繊細でありながら可愛らしい香りに、
フレッシュでぴちぴちとした飲み口が、
柑橘系の香りを付けられた新鮮なたらことよく合った。
  美味しいイタリアンを食べると、ワインが欲しくなる。
お店の人のおすすめのワインを飲むのが好きだ。
ワインを指定するほど自分はまだ詳しくないという理由もあるけど、
人から何かをすすめてもらって、
自分の視野や世界が広がるのが、好きなのだ。


  食事の後に、シェフと商談をした。
商談というよりも、シェフからワインのことや食材のことを教えていただいた。
見習いのシェフの方が明日結婚式だというので、そんな話も少しした。
シェフはモダンなワインよりも、
クラシックなつくりのワインの方が好きだと言った。
話しているうちにシェフとワインを飲んでみたくなり、
今度一本持ってくるので、一緒に飲んでください、とお願いした。
  料理がおいしいだけじゃなくて気さくな雰囲気も、シェフの魅力だ。


  私の夢は、
料理の美味しさとワインの美味しさを共有できる人と、
このお店のカウンター席でディナーをすることだ。
早いうちに実現したいのだけど、なかなかその相手ができない。