不思議な生き物


  オペラシティの近くにあるレストランを担当している。
そこの店長はどういうわけか私の会社のことをよく知っていて、
私なんかでは気軽に話せないようなベテラン社員とも仲がいいらしい。
先輩とともに引き継ぎ挨拶で訪問した時から、
「君はどうしてこんな会社に入っちゃったの。」
と、冗談とも本気ともつかない様子で言っていた。


  初めて1人で営業に行ったとき、
「そろそろあの会社が嫌になってきた頃でしょ。
 みんな、頭悪そうだもんね。
 うちで働く?」
と、その人は言った。
それもまた、冗談とも本気ともつかない様子だった。


  「うちで働く?」という言葉が本気だったとわかったのは、
今日のことだ。
今日もまた、
「どう?会社で続けてそう?
 嫌になったらいつでもうちに来ていいんだよ。」
と言われて、私も笑ってごまかしていた。
そのあとシェフがやってきて、シェフと店長が並んでまかないを食べ始めたとき、
店長がシェフに言った。
「俺ね、彼女  結構面白いと思うんだよ。
 なんか会社勤めで営業をしているよりも、
 こういうお店に立って人と話している方が向いていると思うんだよね。」
と。
あ、結構本気だったんだ、と思った。


  店長もシェフも私をまるで不思議な生き物のように扱って、
「趣味はなんですか?」
とまで、シェフから聞かれた。
なんだか、気になる存在らしい。
気になる、と言われて悪い気がするわけではなかったが、
新種発見とばかりに扱われた挙句、
「色気がない」
と、私が一番気にしていることを言われて、ちょっとがっかりした。


  ただ、どんな形であれ人から興味を持たれるのは少し嬉しいことだ。
その人は言った。
「あなたは、ほら、穏やかと言うかのんびりしているからね。
 なんか、営業というよりかは、
 やっぱりサービスとか接客のような形で人と接する仕事が会ってそうな気がする。」
と。