昔なじみの街


  先輩からの引き継ぎで、慣れ親しんだ街のレストランを担当することになった。
何を隠そう、私は幼稚園から高校までその街に通っていた。
人は、自分のアイデンティティを確立した環境を自分の故郷だと思い込むそうだが、
もしもそれにあてはめるなら、あの街は私にとっての故郷なのである。


  今日もそのレストランに行く前に中学に行き、恩師に会った。
ちょうど、昼休みの時間だった。
仕事は何してるの?
どう?
彩乃にとってどうかしら?
そんなことを、正面からまっすぐ聴いてくる。
何年も会っていなかったとは思えないくらい、
先生は私の心の中に飛び込んできて、びっくりした。
どうしたら先生のように、真正面から人と向き合えるようになるだろう。
私はつい、恥ずかしくてしどろもどろになってしまった。


  私はきっと、
文章を書いていた頃の自分を思い出したくて、先生に会いに行ったのだ。