営業


  営業職に就くようになってから、人の言葉を信じなくなった。
なんていうか、世の中には、
心にもないのに吐き出される美辞麗句が多すぎて、
しかも、
心の中では相手を少し見下しながら吐き出される場合が多く、
何だかがっかりした。
「こういう風にいっておけばいいんだ。」
というように、その場をうまくやりすごすために、
相手の機嫌を良くするためだけに心にもないことを言うなんて、
私は、嫌だ。
でも、それができてこそ営業だとも思う。
言葉巧みに商談を成立させて行くのが営業で、
成立させるためなら相手をおだて褒めることも厭わず、
そのために言葉を巧みに操って行く。


  「なんだか そういうのって、嫌だな」
と思った。

  
  と思いつつ、実際に自分がその場面に直面すると、
まぁ自分でも驚くくらいに美辞麗句が口からぺらぺら流れ出て、
何とか相手をその気にさせようとしている。
反射的にそんな行動をとった後、
一人で道を歩きながら後ろめたさを感じる。
「こんな自分、嫌だなぁ」
と思う。


  もしかすると太宰治はいつもこんな気持ちだったのではないか、
なんて思う。
上辺を取り繕いその場をやり過ごして、後でそんな自分を責める。
でも彼の方がもっと高尚で、真面目で、深刻だ。