サバの味噌煮

  入谷に美味しいサバの味噌煮を出す店があるという情報を得て、
はるばる、入谷へ行った。
会社の先輩を誘い、
その先輩が仲のいい社員を誘い、三人で入谷へ。


  味付けといい、サバのほっくりした感じといい、
一緒に出てきたヒジキやお味噌汁に至るまで、全てがよかった。
遠出した甲斐があった。


  サバの味噌煮を食べた後、喫茶店で時間を潰した。
その先輩と私は、
英語もイタリア語も話せない、
イタリアで暮らした経験がない、
イタリアに深い感心があるわけではない、
という点で似ている。
私のチームは課長を含めて9人いる。
課長と主任は別として、私とその先輩を除いたあとの5人は、
イタリアで暮らした経験がある。
イタリア語、あるいは英語が話せる。
イタリアで暮らしたほどだから、イタリアに強い関心がある。
会社のイベントで外人が来たりすると、
張り切って英語やイタリア語で会話している。


  ちょっとイタリアに暮らしたくらいで
さもイタリアのことは何でも知っているかのように話しているのが気持ち悪い。
かつて会社にいたイタリア人がチームの人間達を見てこう言っていたと、
先輩が話した。
先輩が私にそう話したのは、きっと先輩も、私に親近感を感じたからだろう。
「吉田さんは、日本人ぽいよ。
 他の人たちと、違う。
 どっちがいいとか、悪いとかじゃないけどね。」
先輩は言った。


  そんな話になったのは、
みんな、イタリアンが好きで好きで、
昼もなるべくイタリアンを食べ、夜も積極的にイタリアンを食べているなか、
他の社員に内緒でこそこそわざわざ入谷までサバの味噌煮を食べに来た後だったからだろう。


  心細さを感じても何とか平常心を保てるのは、この先輩がいるからなのだ。