譲れないもの

  仕事で「くそっ」と思うことがあった。
会社に原因があるけれど、
私が言いくるめることができなかったせいで、
お客さんを怒らせた。
自分の身は自分で守る。
そのことの大切さを痛感した。


「こうして人は大人になっていくんだね」
何週間か前の高田さんの言葉を思い出した。
私はきっと、着実に大人になっている。


  ただ一つ思ったのは、
私は、言葉巧みに人の心を操って自分の利益を生むのは、
ポリシーに反すると思ったことだ。
言葉だけが、
言葉を使って世の中とつながっていくことだけが、
唯一自分が真剣になれることだと思っているから、
言葉を使って人の心を利用するのは嫌だと思ったのだ。
上手くお客さんの気持ちを持ち上げて物を売る。
営業はそれに尽きるのだけど、
私は、
自分自身がいいとも何とも思わない物を、
さぞ素晴らしい物であるかのように売り込み、
「○○さんに是非お願いしたいんです。」
なんてお客さんの心を上手くくすぐって、言葉巧みに自分の利益を生んで行くのは、
許せなかった。
私に持ち上げられてやる気になって、お客さんのモチベーションもあがって
レストランの売上げも出てみんなが嬉しくなるのだから、
いいことなんだと言われてしまえば、確かにそうなのかもしれない。
でも私は嫌なのだ。
自分の心にもないことを言葉にするのは、私のポリシーに反する。


  そして私は24歳にしてやっと、
どうしてもこれだけは譲れないという、自分の信念とも言えるべき物を見つけた。
心にも無いことを言葉にして人の心に働きかけようとすること。
それが、嫌なのだ。
私は、自分が本当に思っていることだけを口にしていきたい。
心にも無い言葉を武器にして世の中と関わっていくことは、
私にとっては、自分を裏切ると言うことなのだ。
会社の人にはわかってもらえなくてもいい。
どれだけ私が言葉を大切にしてきたかなんて、会社の人にはまだわからない。
わかったつもりになられても、困る。


  仕事なんだからしょうがない、と言われるのなら、明日にでも辞めていい。