夏休み3日目

  ワインのラベルは、ぬるま湯に浸けておくときれいに剥がせるらしい。
ネットで調べ、早速今まで飲んだワインのボトルをぬるま湯に浸けることにしたが、
数が多かったので浴槽に浸けた。
我が家はいつも浴槽にある程度お湯がためてある。
地震が起きたときのためだと母は言う。
  

  社販で買ったもの、
イベントの残りをもらってきたもの、
先輩が譲ってくださったもの、
いざこう並べてみると、たった入社4ヶ月で家でこんなに飲んだのかと驚いた。
私がアル中になるのではないかと、母が心配するのも無理はない。
私、こんな24歳でいいのかな、と不安になりながら、
またブルーチーズを食べながら赤ワインを飲んだ。
これだけ飲んできた甲斐があって、
私は自分の好きなワインがわかってきた。
ワインを売る以上、ワインの味と、自分の好みを知っておくことが重要と言われている。
私はトスカーナの飲みやすい赤ワインが好きだ。
キャンティキャンティ・クラッシコなど代表的なトスカーナワインも好きだが、
それ以外にも、
美味しくて感動してするする飲んだのはトスカーナの赤ワインだった。
今日飲んだのも、キャンティ
ブルーチーズは、最近気に入って食べているクリーム状になっているもので、
チーズ向けにつくられたクリスピータイプの薄いクラッカーに塗って食べる。
加山雄三さんがかつてCMに出ていた、ああいうクラッカーではない。
もっと薄い。そしてもっとぱりぱりしている。
あのクラッカーはどちらかというとサクサクしていて、しかもクラッカーの味が濃い。


  ぱりぱり、サクサク、で思い出したが、こういう擬音語を「オノマトペ」と言う。
先日六本木の青山ブックセンターの食に関する本のコーナーで、
食に関するオノマトペを特集していた。
どうやら、
食べ物の味や特徴を表現するためのオノマトペに着目した本が多く出ているらしいのだ。
食品を売る仕事をしているだけではなく、
私はどうしても言葉に惹かれてしまうから、
もう一度ゆっくりあのコーナーに行きたいと思っている。  


  洗濯をして、部屋の掃除をして、アイロンをかけた。
今までためてしまった雑誌をもう一度読み返し、
気になる情報を手帳にメモした。
そしてまとめて捨てた。


  休みの日だというのに会社の携帯に電話がかかってきていた。
最近  挨拶をしたばかりのレストランで、
たいした商談もしてこなかったのに何の電話だろうと思いながら折り返した。
あるワインを去年からずっと使っているのだが、
今年のヴィンテージになって去年と味が変わったということだった。
「ぶどう、何使ってます?」
と聞かれる。
何種類ものぶどうをブレンドしたワインなので、
全ての種類はその場ではわからなかった。
「グレカニコ主体でつくっています。」
と、逃げる。
「そうですか。
 何かね、ソーヴィニヨン・ブランの香りがするんですよ。
 去年までしなかったのに。」
だから何だよ、と思ったが
「左様でございますか。
 では08ヴィンテージと09ヴィンテージとで使っているぶどうか変わっているかどうか、
 配合率が変わっているかどうかなどをお調べして折り返させていただきたいと思うのですが、
 実は会社が来週月曜日まで夏期休暇をいただいておりますので、
 月曜日までお待ちいただけるでしょうか。」
と、返事をした。
「はい、お願いします。」
と、言われた。
別にこっちが休んでいようと休んでいまいと相手に関係ないことはわかっているが、
夏期休暇中であることに対してのコメントが一切なかったことが気になった。
まぁ、お客様なのだから、しょうがない。
こんな世間話のような電話をわざわざかけてくるなんて
この人よっぽど自分はワインがよくわかるってアピールしたいんだろうな、と思った。


  浴槽に浸けたワインのボトルを写真に撮ってみて、
何だか中学の写真部の部員が撮りそうな写真だなと思った。
「穴」とか「反射」とか題名をつけて。
私は全くそんなこと意識していなくて、
自分の飲みためたワインとラベルを剥がした夏休みの思い出として写真を撮ったが、
撮った後から眺め返し、そんなことを思ったのだ。