トークショー

  画家の下田さんと文筆家の田崎さんのトークショーを聴きに行った。
最近二人の共著で本が出版され、それについて話すというものだった。
この本の特徴は、
二人で旅をした記録を、下田さんの絵と田崎さんの文章、それと写真の三つで残したことで、
世に珍しい絵と文と写真の三つがメインになった本が出来上がっている。


  19時からだったので、
前日まで行こうかどうしようか迷っていたのけど、
なぜか行かなくてはいけない気がして、慌てて予約した。
いつもは19時半くらいまで仕事をしているのだけど、
18時半前には無理矢理にでも仕事を終わらせると決意した。


  仕事があるから、と言って、
今まで大切にしていたものから遠ざかってはいけない気がした。
それに、私が本当に好きなのは仕事ではなくて、
やはり表現をするということだから、
できる限りこういうことに触れておきたかった。


  トークショーが終わった後はサイン会で、
下田さんが一人ひとりに似顔絵を描いてくださった。
普段は色鉛筆で描くようだが、今日はペンだった。
私の前の女性の似顔絵を描きながら
「あれ、何か間違えちゃった。ごめんね。ちょっと違っちゃったな。」
と、下田さんは言って、サインの横に「ゴメン!」と描いていた。


  私の番になり、似顔絵を描いてもらいながら
初めて正面から下田さんが絵を描いているときの表情を見てみると、
目がまるで子供のようにキラキラしていて、
これ以上に楽しいことは無いというくらい楽しそうに笑っていて、
私はその表情に圧倒されてしまった。
今この瞬間、この人は自分の顔に興味を持ってくれているのだという気にさせる表情で、
だからこの人が描く絵の人たちはみないい表情をしているのだと思った。
何故か、この人に絵を描かれると、悪い気がしない。
むしろ、描かれることが幸せだという気になってくるのだ。
「きたよ。今回はいいのが描けた。おぉ、きたねー。
 いけましたよ。」
と、下田さんは言った。
「いけました、って書いてください。」
と私がお願いすると、本当に書いてくれた。


  サインを書いてもらった後、新井さんとも少し話した。
就職して以来初めて新井さんにお会いしたので、近況なども話した。
新井さんも私の就職を心配してくださっていたうちの一人なので、名刺を出した。
「新井さん、私ちゃんと就職できたので、
 就職できた証拠に名刺を受け取ってください。」
と言いながら渡すと、新井さんも名刺をくださった。
あんまり嬉しすぎて、飛び跳ねてしまった。
改めてまた、
新井さんが編集した写真集が好きだということを伝えて、帰ってきた。
自分の好きな本を創った人に直接「好きです」と伝えられることは滅多に無いことだ。
やっぱり、行って良かった。