つるっつるの気持ち


  岸田繁のブログに
「まるで恋をする瞬間みたいな、つるっつるの気持ち」
と書いてあって、面白い表現だと思った。


  私は、恋愛をテーマに文章を書くことが苦手だ。
きっと、恋愛が苦手だからなのだと思う。
24歳にもなってやっと、自分は恋愛が苦手なのだという大変なことに気が付いた。
恋人が欲しいなどと年がら年中言っている割にいつまで経っても一人なのは、
恋愛が苦手だからに他ならない。


  かつて好きだった人に
「吉田はプライドが高い」
と言われたことを、今でも2日に1回は思い返す。
私はその人のことを、自分で自覚していた以上に好きだったはずなのに、
どうしてもその人の前で素直になれなかった。
自分の弱い部分や、自分の本当に大事な思いをその人に見せられなかった。
彼はそのことを
「プライドが高い」
と言ったのだろう。
プライドが高いんじゃない。
自分と、向き合うことができなかっただけなのだ。
いや、違う。
やっぱり、私はプライドが高かったのだ。
恥ずかしい思いをしたくなかったのだ。
私はいつも自分を恥ずかしい人間だと思っていて、
いつもそこから目をそらしていて、
誰かを好きになることで恥ずかしい自分を目の当たりにするのが、嫌なだけなのだ。


  私はその人と一度だけ浅草に行った。
浅草からの帰り、
彼はふざけてホームから線路に私を落とそうとした。
私が本気で怒ると、その人は悲しそうな顔をして今度はベンチに私をひっぱり、
肩をおさえてベンチに座らせ、まるで子供のように嬉しそうな表情を見せた。
その瞬間の私の気持ちを、岸田繁は、「つるっつるの気持ち」と呼ぶのだろうか。