探し物は見つかりましたか

 
  隣の席の先輩が、余ったワインをくれた。
イタリアのフリウリ・ベネツィア・ジューリア州という地域でとれた、
フリウラーノという品種のブドウ100パーセントで作った白ワインだ。
何気なく飲んでみたら、目が覚めるほど美味しかった。
ワインでよく「ミネラル感」という表現を使うのだけど、
この感覚こそがミネラル感なのだろう!と思わせられる口あたり。
芯があり辛口のしっかりした味わいなのに、
とても爽やかでなめらかでもある。
飲み干そうとするとき、
喉の辺りからもう一度口全体にふわっと香りが広がる。
このふわっと広がる感じは、
まさに私が濫用する「モワッとした」という表現にふさわしく、
美味しくて美味しくて、
私は一人で二杯も三杯も飲んだ。
家だと油断してピッチが早くなるので、危ない。


  書きたいことはちょこちょことあったのだけど、
どうも眠くて起きていられなくて、金曜日から一文字も書かずにいた。
思い出しながら、今日、まとめて三日分書いた。


  昨日の日記に新井さんのことを書いたら、
ふと、
新井さんからもらった絵はがきにこんなことが書いてあったのを思い出した。
「探し物は見つかりましたか?」


  去年の今頃、
新井さんと出会った日に私はこう言った。
「昔から文章を書くことが好きで、
 自分は何かを表現したいと思っていたんですが、
 今、
 自分は出版社で働きたい訳でもない、
 ものすごく書きたい物があるわけでもない、
 映画でもなければ音楽でもない。
 でも何か表現したい。
 何かをしたいけど何をしたらいいかわからなくて、
 じゃあ自分は何をしたいんだろうと、今、考えているところです。」
と。
あの頃まだ就職も決まっていなくて、
まさか自分が商社に入るだなんて夢にも思っていなかった。


  そして12月、
「探し物は見つかりましたか?」
と書かれたはがきを受け取った。


  探し物は、まだ見つかっていない。