五月の海

  働くようになってから、どうも  くるり  の曲は気分に合わなくて、
専らYUKIの新しいアルバムばかり聴いていた。
それを聴きながら会社に行くのが私の生活のリズムになっていて、
たまに「空気人形」のサントラを聴いたり、
コダマさんからもらったスピッツの曲を聴いたりしていた。


  たまに無性にくるりが聴きたくなる時もあって、
それは大抵、仕事の帰りだ。
それも木曜や金曜、週の後半が多い。


  きっと私にとってくるりとは、会社では出さない自分の一面の中にあるのだ。
週末が近くなって段々と自分の時間に戻っていくなかで、
私はふと、くるりの曲が恋しくなるのだと思う。


  岸田繁のようにもさっこい男が好きなのかと聴かれれば、そうではないと答える。
岸田繁が好きならば、あの辺りのジャンルのもさもさしたバンドが好きかと聴かれても、
そうではない。
ゆらゆら帝国とか、アジカンとか、ナンバーガールとか、
くるりが好きなバンドマンなら取りあえずたしなみとして知っていそうなバンドをいくつか
バンドマンから教え込まれたが、聴く気が起きなかった。


  好きになった人がたまたま  もさもさした男であっただけで、
初めからもさもさした男が好きな訳ではない。
じゃあ岸田繁の何が好きかって、
自分の好きな女の人をいたわり、慈しむようなやわらかい歌詞と、
あの力の入っていないやわらかい歌声が好きなのだ。
実際はどうなのかは知らないけれど、
好きな女の人を両手で掬い込むように大事にしている感じが、いい。


  特に好きなのは「恋人の時計」という歌の最後の方の歌詞だ。
「泣いているのかい」という辺りの、ささやくような声のやわらかさが、何とも言えず、いい。


  いつか何かの雑誌で岸田繁
「僕は本当は歌詞なんてどうでもいい。
 大事なのは曲で、音楽で、そこに歌詞をつける」
というようなことを言っていたのも、印象的だった。
私のように、ここまで彼の歌詞に惚れている女がいるというのに、
そんなことを言ってのけたのだから。


  「五月の海」という歌もいい。
どのアルバムにも入っていない。
You Tubeでたまたま見つけた。
ものすごく好き、というほどではないし、
私の好きな、いたわり慈しむような歌詞ではないけれど、
自分が五月生まれのせいか、なんだか心にひっかかる歌だ。