ワインに虫

  午後、社販で買ったワインを飲みながらDVDを観ていた。
良く晴れた清々しい春の日の午後に飲む白ワインは格別で、
23歳の女が休みの日の昼間から一人 自宅でワインを飲むのもどうかと思いながら、
仕事の勉強という大義名分のもとにワインを堪能した。
窓をあけたままにしていたので、気持ちのいい風が入ってきていた。


  ふとグラスの中をのぞいてみると、ワインに小さな虫が浮かんでいた。
少しも動かない様子から、もうすでに死んでしまっていたように見えた。
しばらく私はその虫を見つめて、
山田詠美の小説にこういう描写が出てきそうだなと思った。


 山田詠美の小説の一節を思い出した。


   彼女は、川の水で冷やした白ワインを注意深く開けて、プラスティクカップに注いだ。
   「ほら、見てごらん」
   彼女は、カップを、陽ざしにかざした。ワインには光の粒が沢山溶けているように
   見えた。  
   「一杯の川の水と一杯のワインのどちらにいっぱい太陽が入ってるでしょうか」


 「唇から蝶」という短篇の一節だ。