ニューヴィンテージの白ワイン

  今日は某会場で、ニュービンテージの白ワインの試飲会があった。
数十種類の白ワインを会場に集め、お客様を呼び、試飲していただく。
ニュービンテージとは、新しいヴィンテージのこと。
ヴィンテージとは、そのワインの生まれた年のようなものだ。
ワイナリーとは、ワインメーカーのこと。
そんなことを、私はこの会社に入って覚えた。


 様々なワイナリーのワインを集めているのだが、
今回は三社のワイナリーが来日した。
私は新人だからか、ワイナリーの方がやってくるワインのブースの担当だった。
小柄で可愛らしいエルダ氏というイタリア人女性がやってきた。
黒いニットに黒いパンツ、そこに、
よくはえるきれいなグリーンの大ぶりのストールを巻いていた。
私のブースには、
英語が堪能な先輩と、イタリア語が堪能な先輩もいて、
二人がエルダ氏をもてなし、私はそれを見ていた。
英語で話してくれると、なんとなく話の内容がわかった。


  エルダ氏はさすがイタリア人で、
会場では立ちっぱなしになるので負担の少ない黒いパンプスをはいていたが、
カバンからはちらりと、
ストールとよく似た色のグリーンのヒールがのぞいていた。
オシャレだなーと感心してしまった。


  先輩二人がいなくなった時、エルダ氏が私に話しかけてきた。
先輩二人がエルダ氏と流暢に話していたものだから私も話せると思ったのだろう。
あいにくだが私は話せない。
しかも彼女はイタリア語で話しかけてきた。
話せもしないのに、思わず
「English」
などと返事をしてしまった。
せめてpleaseくらいつければ良かったのに、
気が動転してしまった。
今日のお客さんの入り具合はどうだと、彼女はゆっくりめの英語でたずねてくれた。
単語を羅列しただけのぶつ切りの会話で、
彼女と少し意思の疎通をはかってみた。
ワインの勉強をある程度したら、英語もちゃんと身につけようと心に決めた。


  それからしばらくして、エルダ氏が私にまたイタリア語で話しかけてきた。
うっかり忘れてしまったのか、
それとも、もうどうでもよかったのか、わからない。
フィニット、という言葉が聞こえたので、英語のfinishと関係あるかもしれないと思い、
彼女は「もうそろそろ終わる時間か」と聞いているのだろうと推測した。
もう終わる時間です、とちぐはぐな英語で答えると、
彼女はおしゃれな靴の入ったカバンを持ち、
マーケティング部長のもとへと去って行った。


  気さくな方で、帰る間際にわざわざ私の所へ戻って来て、
驚くくらいの素晴らしい笑顔で私と握手してくださった。


  とても素敵な方で、
入社一ヶ月も経っていない私にとっては非常に素晴らしい経験となった。
彼女のワイナリーのワインも是非好きになりたかったのだけど、
どうも私には物足りなく感じてしまって、
彼女を好きだと思うように、彼女達が作るワインを愛でることはちょっとできなそうな気がした。


  それには理由がある。
ワインにはいくつもの醸造方法があるが、
木の樽で寝かせて発酵させることもあれば、
ステンレスタンクで寝かせて発酵させる場合もある。
両方の工程を経て造られる場合もあれば、どちらかだけ、ということもある。
木の樽で寝かせれば風味が増して香り高いコクのある仕上がりになる。
ステンレスタンクで寝かせると、さっぱりとした飲みやすい仕上がりになる。
私はどちらかというと木の樽で寝かせた少しクセのあるワインの方が好きで、
(私の尊敬する先輩曰く、本当の酒好きほどそういうワインを好むのだという)
ステンレスはさっぱりしすぎていて物足りなく感じてしまう。
エルダ氏のワイナリーのワインはステンレスがメインで、
どうもきれいに、上品にまとまっているものが多いのだ。
今日も5種類ほど彼女のワイナリーのワインが展示されて味見をしたが、
ちょっと、物足りなかった。
  

  入社して一週間の頃、先輩がこんなことを教えてくれた。
「吉田さんもこれから沢山ワインを飲んでいくうちに、
 好きな作り手っていうのができてくると思うよ。」
と。
その言葉の意味が、今日、ほんの少しわかった気がした。


  エルダ氏のワイナリーのHP
http://www.liviofelluga.it/?lang=en