領収書のゆくえ


  昨日家に帰ったのは1時過ぎだった。
ずいぶんな量のお酒を飲んでいたが、
ウコンのおかげで朝の目覚めはお酒を飲んだ日の翌日とは思えないほどすっきりしたものだった。
ウコンは社会人のたしなみだと思った。


  それでも頭はどこかまだぼんやりしていたようだ。
タクシー代として二万円をお借りした先輩にお金を返そう思い、
封筒に二万円のおつりの数千円を入れて用意していた。
渡す直前になって
「おつりをそのまま渡してどうするんだ」
とやっと気が付いた。


  もちろん私は一万円札を二枚も持ち合わせていなくて、
仕方なく先輩に打ち明けた。
「今日お金をお返ししようと思って用意したんですが、
 うっかり おつりだけもってきてしまって、
 二万円を用意するのを忘れてしまいました。
 明日、二万円揃えてお返しします。申し訳ありません。」
小声で私がそう伝えると、先輩もまた小声で、
「領収書、ちゃんともらった?」
と、尋ねてくださった。
「はい。」
「じゃあ、そのおつりと領収書を俺に渡してくれる?」
と、言ってくださった。
確かに、私よりも先輩の方が領収書を上手く処理してくださるだろうと思った。
ご好意に甘え、領収書とおつりをお渡しした。


  ただの歓迎会の後に、社員が家まで乗ったタクシーの領収書を、
その先輩がその後どういうふうに処理してくださったかは知らない。
敢えて聞いてもいないし、
お礼は一度言ったきり、もうその話は出さないようにしている。