満員電車のイタリア人

  会社にマルコというイタリア人がいる。
マルコは小売り向けの営業で、
日本人とイタリア人とのハーフだ。
随分流暢な日本語を話し、声も大きいため、
彼が電話で話しているのがいつもよく聞こえる。
「えぇ、えぇ、ですからね…」

「と おっしゃいますと?」
などと、こなれた言い回しを使うことも少なくない。


  今朝、マルコが満員電車の中でもみくちゃにされているのを目撃した。
彼にはイタリア人の血が流れているから、
誰もが目を見張るようなかっこいいスタイルで出勤しなくては気が済まない。
夏なんて第五ボタンくらいまではずして、胸をはだけさせ、
サングラスをして出勤してくるらしい。
会社に入って仕事が始まればしっかり全部のボタンをしめるのだという。
なら家からボタンをしめてくりゃあいいのに、
例え短い通勤時間でも、かっこよくなければ、だめなのだ。
そんな彼は今日も、日本人が決してかけないような大きなサングラスに、
大きなヘッドホン、
もちろんジャケットなんて羽織らず薄着で完璧に身繕いしていた。
彼は、満員電車の中でものすごく体をのばして窮屈そうに、
電車から押し出されないようにドアの上の淵の部分をつかみながら、
必死で自分の体を電車の中に押し込んでいた。
背が高いのとそのルックスで、かなりインパクトがあるが、滑稽だった。


  部署が違ってまだ一度も話したことがなく微妙な間柄だから、
見て見ぬ振りをした。