さっきまで寝てました?


  朝から食品の展示会だった。
都内某所に国内の食品会社が集結し、
レストランなどに向けて自社商品を紹介するイベントだ。


  あまり休憩も取れずに一日中立っていたのだけど、
14時くらいにやってきたお客様に
「あれ、さっきまで寝てました?」
と、言われた。
眠そうな顔で、申し訳ない。
私が担当している神楽坂のお店のワイン担当の方だ。
「いえ、朝からずっと起きてますよ。」
「えー、本当ですか?
 さっきまで寝てたんじゃないですか?」
「腫れぼったい目で申し訳ありません。
 次回からアイプチとかした方がいいですかね。」
「いやー、僕もよく目が腫れぼったいって言われるんですよ。」
なんて、言われた。
一ヶ月近くネゴしてきた商談がやっとその場で決まり、
ワインを3ケース買ってもらう約束をした。


  南麻布で隠れ家のようなお店を開いているお客さまも、来てくれた。
「さっきも一度ここのブースに来たんですけど、吉田さんいなかったんで。
 会えて良かったです。」
と、わざわざ来てくださった。
商談しているのはバーテンをしている男性だが、
銀座かどこかのクラブで働いていた女の人二人をオーナーにして
経営しているバーで、
今日はそのオーナーの女性二人にお会いできた。
とても美しく、物腰も柔らかく、話しやすく、素敵な方で、
クラブで働いていただけあるなぁと思った。
「今度一緒に飲みませんか?」
とお誘いを受ける。
商談相手の男性に
「あぁ、でも夜中に吉田さんを呼び出しちゃって嫉妬する男性がいたら困りますね。」
と言われ、間髪入れずに、
「残念ながら誰も嫉妬してくれません。」
と返事した。
「じゃぁ誰か呼んでおきますよ。
 紹介しますね。」
と、言われる。

  
  終了間際になって、渋谷の居酒屋のようなお店の人たちも来てくれた。
これもまた、渋谷の隠れ家のようなお店で、駅から少し離れた場所にある。
こじゃれた店内で働く社員の男性3人はみな揃いも揃ってイケメンで、
私は「イケメン」という言葉があまり好きではないのだけど、
彼らを形容するにはイケメンという言葉が一番ふさわしいように思う。
店長は和製ジョニー・デップと言っても過言ではない。
「買うか買わないかは別にして、
 今日は美味しいワインだけを飲んで行ってください。
 私の好きなワインを紹介します。」
と、紹介した。
そこはいつもアポなしで突然訪問しているお店で、
和製ジョニー・デップが休みの日にうっかり訪問してしまうことも多々ある。
そんな時に商談している若そうな小柄の男性がいて、
彼も今日の展示会に来てくれた。
彼ともしばらく話をしていたら、展示会の後、
「さっき吉田さんが話をしていたイケメン、どこのお店の人ですか?」
と、一個上の先輩から聴かれた。
渋谷の居酒屋っぽいお店の人です、と答えると、
「なかなかいい雰囲気だったじゃないですか。
 付き合っちゃえばいいじゃないですか。」
と言われ、
「いや、イケメンに申し訳ないです。」
なんて話をした。
誰かとお似合いですよと言われるなんて、中学生か高校生のとき以来のように思う。
帰り道、先輩の言葉を思い出して少しにやけてしまった。

 
  いつもは私から訪問するけど、
こんな風に展示会などの機会にお客様がわざわざ私に会いにきてくれると、
とても嬉しい。
一人で営業に出始めてもうすぐニヶ月になるが、
私が出している売上げなんてまだまだお小遣い程度の金額だ。
でも、今日色々な人が会いにきてくれて、あぁ良かったなと心から思った。