チラシ

  ジャッキーから芝居のチラシが届いた。
いつもは何かしら手紙が添えてあるが、
今回はチラシだけで、彼女もきっと忙しいのだろうと思った。


  14時半から有楽町のレストランでアポをとってあって、
それまで、
有楽町のビル街の中の並木道のベンチに座りながら時間を潰していた。
彼女のチラシを見ながら、手紙を書いた。


  そのチラシに使われているジャッキーの顔写真は、
今年の2月に私の知人が撮ったものだ。
本当は私が撮るはずだったのだけど、
お互い何だか気恥ずかしくて、上手く写真を撮れなかった。
そして急遽、知人に頼んだ。
場所を借り、三脚まで用意して、きちんと撮ってくれた。
顔写真を撮ってほしいと頼んだとき、彼が真っ先に
「室内?屋外?」
と聞いたのが印象的だった。
私たち素人にはない発想だったからだ。


  有楽町の後は高円寺に行くことになっていた。
バールで、狭い店だが、働いている人は皆温かく、
また、窓や扉を開け放っていて開放感がある。
まだ一度しか訪問したことがなかったが、好きなお店だった。
今日も私がオーナーと商談をしていたら、
下校途中の小学生が店の前を通りかかり、
キッチンの男性達と楽しそうに話をしていた。
その雰囲気が、好きだと思った。


  都会のオシャレなレストランもいいけど、
こういう人情を感じさせるお店の方が、私は落ち着く。
この高円寺のお店は、
うちのワインを使ってくれていたにも関わらず、
今まで誰も行こうとしないお店だった。
たらい回しのように引き継がれ、新人の私にまわってきた。
都心の大きなお店の方がワインも動くし、知名度も高い。
そこで使ってもらうことに意味がある、という場合も多々ある。
仕事なんだから、そういう重要なお店に力を注ぐのが大事なのだろうなーと思う。
でも私は、そういう美しい仕事の仕方をしていたら、
自分はこの仕事が嫌になっていくのだろうなと思った。
自分を貫いても誰にも文句を言われないくらい、仕事ができる人間になりたい。


  ジャッキーは今年のはじめまで阿佐ヶ谷に住んでいた。
阿佐ヶ谷や高円寺が好きなのだと、彼女は言っていた。
営業に行くようになって、私はその意味がわかった気がした。
阿佐ヶ谷の商店街を歩いて、取引先のバールへ行く。
その時間が、いい。
何がどういい、と上手く言うことはできない。
小学生がふらふらとバールの前で立ち止まり、
仕込み中のスタッフと無駄話をして家に帰って行く。
そういうことが許される空気が流れている。
それが、いい。